最近、「発達障害かも?」と、ご自身で調べられて来院されたり、家族や会社からその可能性を指摘されて受診される方が、大変増えています。患者さんやそのご家族の方からよく受ける質問とお答えする内容をまとめてみました。
注意欠如・多動性障害(ADHD)と自閉症スペクトラム(ASD)を中心に大人の発達障害という言葉は最近よくメディアでも取り上げられ、一般の方にも徐々に理解が深まってきているようです。
「大人の」といっても、大人になって気づくという意味で、先天的な脳の機能の障害だと考えられています。
仕事を始めたりして社会とのかかわりが深くなってきて初めて気づき、医療機関を受診される患者さんの多くは注意欠如・多動性障害(ADHD)と自閉症スペクトラム(ASD)のいずれかまたはその合併の場合がほとんどです。 注意欠如・多動性障害(ADHD)と自閉症スペクトラム(ASD)はしばしば合併することも多く、精神療法・心理療法や生活環境調整・職場環境調整などの非薬物療法の多くは共通のものも多いです。
ASDそのものには有効な薬物療法がないことに対して、ADHDには最近は複数の効果的な薬物が大人にも使用できるようになっており、医療機関で最初の段階でしっかりと診断することが以前より大切になってきています。
診断はおもに問診による発達歴と現症の聴取によります。 自閉症スペクトラムは現在の国際的診断基準DSM-5では広汎性発達障害とほぼ同義語として使用されており、自閉症、アスペルガー症候群と言われていた病名も包含されています。 おもに、
が重要な診断基準となっています。
具体的には以下のA,B,C,Dを満たしていることとされています。
一方、成人の注意欠如・多動性障害(ADHD)の診断は、DSM-5の診断基準で、下記のような症状を満たしているかにより、不注意優勢型か多動性・衝動性優勢型かが決まります。成人のADHDの場合は、不注意優勢型が圧倒的に多いです。
よくある質問ですが、発達障害の確定診断のための特別な検査は存在しません。
当院では、一般的なスクリーニング検査ASRSテストや抑うつの合併の有無のスクリーニング検査(SDS等)は診察前スクリーニング検査として施行いたします。
必要に応じて身体的疾患の有無や他の精神疾患の除外診断や合併症の有無を調べるための検査を行うことがあります。
また補助診断として、当院では詳細な知能検査WAIS-4 (WAIS-IV)をご提案することがあります。
また発達障害の特性の程度の診断と要支援度の評価のためにMSPAという心理検査も受けることが可能です。
MSPA(エムスパ:Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD)とは、発達障害の特性の程度と要支援度の評価尺度です。
発達障害の特性について多面的に評価を行い、特性チャートにまとめることで支援が必要なポイントを視覚的に捉えることができ、ご本人の困っている特性や支援の必要なポイントが見て分かるようになっています。
発達障害の診断目的ではなく、ご本人の特性や困り事を整理し、視覚的な特性チャートを作成することで適切な支援に繋げることを目的とします。
発達障害は同じ診断名であっても、一人ひとり特性や困りごとが異なります。
特性チャートがご本人の自己理解や周囲との共通理解を深め、よりよい支援や環境調整のサポートに繋がります。
検査では、ご本人や保護者等からの幼少期からの成育歴の聞き取りを行います。
「コミュニケーション」「集団適応力」「共感性」「こだわり」「感覚」「反復運動」「粗大運動」「微細協調運動」「不注意」「多動性」「衝動性」「睡眠リズム」「学習」「言語発達歴」の14項目から多面的に評価し、特性チャートにまとめます。
患者さんの中には、よくご自分で調べられていてWAIS(ウェイス)検査が受けられるかご質問される方がいらっしゃいます。
この検査の最新バージョンはWAIS-IV(4)になりますが、このWAIS-Ⅳは、検査を受けられた方の知的能力(IQ)の程度やさまざまな能力の差(特徴)を捉えることを目的とした検査です。
そのため、発達障害かどうかをこの検査だけで診断することはできません。
ただ、能力の差が大きい場合は発達障害の傾向が疑われるなど発達障害の医学的な診断の補助として極めて有用な心理検査です。
検査はおおよそ2時間ほどかかりますが、この検査を通して得られた情報・結果から、知的能力(IQ)の程度、得意・不得意や特徴、能力の偏りなどを捉えていきます。
発達障害の診断・医療的介入へ活用することのみならず、検査結果を踏まえて今まで漠然と感じてきた困難・違和感と自身の能力との関係や自分についての理解を深めること、これからの日常生活や仕事・学業に役立つヒントを見つける手がかりとして活用していくことも大切です。
また、うつ状態や不安障害が合併していることも多く、ADHDの症状を増悪させていたり、社会生活に支障が生じている場合は、これらの合併症に対する薬物療法も並行して行うことがあります。
患者さんの中には、これらの薬物療法に抵抗感を訴えられる方もいらっしゃいます。これらの薬物療法は比較的安全で、有用性も高いものですので、適応がある方には積極的にお勧めしています。
ただこれらは根本的に不注意・衝動性・多動性を治癒させるものではなく、あくまでも症状を軽減させるためのものです。
それにより、環境調整や行動変容がしやすくなり、患者さんの生きづらさを改善し、患者さんの自己効力感を再生するための補助的なものと位置づけられております。
必要に応じて医師による診察以外での、認知行動療法:CBT(個別心理カウンセリング)や「大人の発達障害のための集団認知行動療法」(G-CBT)を行っています。
特に、グループでの障害の理解と対処スキルの習得を目指す集団精神療法は極めて有用な治療法と考えられます。
私たちは、常に患者さんのニーズに合ったオーダーメイドの治療法をご提案するよう心掛けています。
Q7のADHDの治療の質問と通じるところですが、ASDも現在のところやみ終える・根治することは難しいと考えられています。
またADHDと違って症状を改善させる有効な薬物療法も現在のところ存在しません。
ただ、成人ASDの方は、ADHD、うつ病・うつ状態、不安障害などを合併し、症状を複雑化・重症化し社会生活に多大な支障を生じていることも多く、これらの合併症に対する適切な薬物療法は有用です。
環境調整とは、自閉症スペクトラムのある人と周囲の人間が、自閉症スペクトラムの症状や特性をよく理解したうえで、生活面において工夫をおこない、本人が過ごしやすい環境を整えることです。
主治医による診療や臨床心理士との心理カウンセリングをもとに、家族や職場の人達にも協力してもらうことが必要となります。
当院では、病気の理解と対処スキルの向上のために、個別心理カウンセリングは重要な治療法と位置づけています。
また集団による気づきやコミュニケーションスキルの習得を目標に集団療法も重要な治療機会と捉え、「大人の発達障害のための集団認知行動療法」(G-CBT)や休職中の方にはリワークプログラム(復職支援プログラム)が受けられ効果を挙げています。
自閉症スペクトラム(ASD)は治らないので治療方法はないと諦めずに、主治医・臨床心理士らと信頼関係を築きながら一つ一つ困難を克服することにより、生きづらさの改善と自己効力感の回復に繋げていきましょう。
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